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「羽後の子ども」第30集より

  • 執筆者の写真: 晴夫 沼澤
    晴夫 沼澤
  • 4 時間前
  • 読了時間: 3分

「羽後の子ども」第30集(1999年度)より、2篇の詩を紹介します。

 

この年度の主な出来事は、「平成11年度(1999)を紐解く」をご覧ください。


「世紀末」という語があてはまりますが、実際はどうだったでしょうね。

 


 

  大根ほり

 

         西馬音内小田沢分校3年

 

「正明、大根ほり行くど。」

ぼくは、ばっぱの手を引いた。

でこぼこのさか道を上って畑へ。

「ねこ、小屋がら持って来い。」

ぼくは、走って行った。

ガタンガタンドン。

ねこも走った。

いよいよ大根ほりだ。

まわりの土をほる

下の方は、ちょっとあたたかい。

葉っぱをつかんで思い切り引っぱる。

バキッ。ペシャ。

葉っぱが切れてころんでしまった。

「ちゃんとまわりほんねがらだべ。」

ばっぱがまわりをもっと深くほった。

今度はどうだ。

ズボッ。

気持ちよく太い大根がぬけた。

ザッザッザッザ。ズボッ。

ザッザッザッザッザ。ズボッ。

深く深くほって、思い切りひっぱる。

 

(略)

 

つめは真っ黒。

はがれたつめもある。

午後も、ばっぱと二人でがんばった。

十本ずつ、十回、ねこで運んだ。

「これでさい後だ。正明。」

フウ、とまわりを見ると、

何もなくなった大根畑。

畑がさみしそうだった。

 

               

◆畑で命を育んできた大根と、人間が向き合う「場」を描いている。戦っているようでもあり、遊んでいるようでもあり、「ばっぱ」と二人で過ごした時間は汗と土のにおいがする。二人が去った後の畑のさみしさも伝わってくる。

 



 

家より大きな杉の木

 

           新成小5年

 

学校から、ぼくは帰ってきた。

ギーン、ギーン

後ろの方から音がする。

ぼくは、走って行ってみた。

すると、父さんが杉の木にロープをまきつけていた。

じいちゃんが、チェーンソーを持っている。

杉の木を切るんだ。

ぼくは、じっとチェーンソーを見た。

木に近づいていく。

ギュン。パチパチパチ。

ものすごい音とともに、木のかけらがとびちった。

火花のように、とびちった。

 

家より古い杉の木。

兄さんとしたおにごっこ、楽しかったな。

友達とあつめたみつ。

べたべたしたな。

ザラザラの木をさわって、上を見る。

ぼくを空までつれていってくれたな。

ずっと、ずっとそこにあったんだ。

 

バリバリバリバリ。

ドスーン

ぼくの髪がゆれた。

草や木の葉がゆれた。

地面が小さくゆれた。

木がぼくへとむかってきた。

高い、高い杉の木が横になった。

台風のような風と一緒に、

木の粉が目に入ってきた。

目から、ポロッと涙が流れた。

 

 

◆「家より古く、大きい」ということは、その家をずっと見守ってきた証しだ。「ぼく」も「父さん」も「じいちゃん」もみんな、小さな頃からこの杉の木に見守られてきたのだ。その木を倒す人の思い、倒される木の最後の「熱」のようなものが伝わってくる。

 
 
 

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