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執筆者の写真晴夫 沼澤

「羽後の子ども」第22集より

 平成3年度(1991)の文集から取り上げます。


 この年4月の町長選挙で問題が起こり、6月に再び町長選が行われたという波乱の幕開けがありました。

 また、西馬音内町部にあって長い歴史を持った酒造会社が閉じられて銘酒「若返り」が製造中止となった年でもあります。

 一方、町歴史民俗資料館が開館し、そして今普通に通っている「西馬音内大橋」が完成して交通の流れが少し変わりました。



 小学生の紹介作品は、 平成に入っても依然としてこうした家族風景が続いていたことを証明しているようです。

 

 

出稼ぎにたつ祖父

 

      明治小6年

 

 

「胃の薬持ったが」

祖父の顔をのぞきこんで祖母が言う。

「持ったった」

「かざぐすり持ったが」

「持ったったよ」

「あまり残業さねたてえがら」

「わがってらって」

祖父は、顔をそむけて言う。

でも、祖母は手を休めることなく

食器を新聞紙で包み続ける。

 

駅についてしまった。

案内の放送が大きくひびく。

「のどかわぐべ」

祖母と母がジュースを差し出す。

弟がバックの中に入れてやる。

プラットホームに向かう祖父

「体さ気つけでな」

うしろから祖母が声をかける。

祖父はふり向かない。

祖母は大きくため息をついた。

「くるど」

母の声に、

みんなが列車の方を見た。

 

           

◆自分の中にある感情をそのまま言葉にすることをためらい、悟られないようにする時代があって、しかし、だからこそ発する一つ一つの言葉は重い。動きが意味を持つ。「心を通わせる」ために、みんな相手に向き合っている。




  

 黄 昏

 

     仙道中1年

 

今日もまた

あなたは黄昏を美しくする

 

あなたはずっと前から

私たちを

見つめてきた

うれしいこと

哀しいこと

どんなことも知っていて

希望という命の源

 

黄昏にあなたが織り成す空は

オレンジ色や群青色

元気いっぱいのオレンジ色の時は

明日も楽しくしようね

淡い淡い群青色の時は

悲しみにしずまないで

力強くささやく

 

今日もまた

あなたはこの黄昏を

世界で一番美しい時にする

 

 

◆中学1年生の目に映る「たそがれ」は、黄昏の文字のようにロマンチックで、明日という日に確信の持てる美しさにあふれていたに違いない。そうやって繰り返した日々の中で、だんだんとあなたの感じる「美しさ」は深さを増していっただろうか。

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