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  • 執筆者の写真晴夫 沼澤

「羽後の子ども」第17集より

 昭和61年(1986)の詩作品です。

 

 この年の3月、黒沢家住宅が県有形文化財に指定されたのに続き、61年度に入った4月には前郷神社本殿、西蔵寺山門、地蔵院鐘楼門、三輪神社鐘楼を町有形文化財に指定しました。


 7月には活性化センターが完成し、11月には現在地に県立羽後高等学校新校舎が完成しました。

 また、最後の鷹匠・武田宇市郎氏が廃業宣言したのが10月でした。

  ※写真は「美の国」秋田ネットより

 

 

 今回は中学生の作品を先に紹介しましょう。

 

 

  夏の音

        三輪中3年

 

耳の奥まで入ってくる

それは はしゃいでいる水の

夏の妖精のことば

友達には見えないかもしれない

友達には聞こえないかもしれない

 

だが私には聞こえる

妖精がはしゃいで

水の音をたてて

楽しそうに

おしゃべりしているのが

 

それはきまって

畑仕事を手伝っているとき

ぽたぽたと汗を地面に吸い込ませ

土の臭いに体中がまみれているとき

 

セミの声を どしゃぶりのように浴びて

夏の風を体の奥底まで吸い込んで

燃える緑の木々や道ばたの草花まで

友達になろうと

友達になろうと話しかけてくるとき

妖精のおしゃべりが聞こえてきて

眠くなる

 

夏の花も芽を出している

いま夏の音が勢いよく

頭のてっぺんから足のつま先まで

かけめぐっている

 

 

◆日照りのなか、地面に近い場所だから聞こえる、汗にまみれているから響いてくる「夏の音」。自分の体中をかけめぐって、心を喜ばせ、生きている実感を教えてくれているのだ。水、風、花…人は自然の中で息をするということ。





残り少ないカレンダー

       

          明通小5年

 

朝ご飯のとき

ふと カレンダーを見ると

十二月十八日だった。

 

今日は 十九日だ。

と ひとりごとを言って

 

柱にかかっている

カレンダーを

いきおいよくビリッとむしった。

 

あと数枚しかないカレンダー

もうすぐ 新しい年になる

私は 大声で

「もうすぐ 十二才になるど。」

と母に言った。

 

母は

年のことを気にしているのだろう。

べつの話をして

味そ汁をぐっと飲んだ。

 

母は

少しさびしそうな顔をしている。

のこり少ない

カレンダーが一枚

ふわっと動いた


 

◆目には見えない時の流れを、紙と数字で示すカレンダー。日めくりのかかる柱は、家の歴史を示しているようだ。ビリッとむしり、新しい年へ向かう娘と、それとは違う心持ちのある母。対照的な二人の姿を、その日のカレンダーが見守る。


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